新しい科学技術は、憲法が保護しようとしている価値が何であるのか、より厳密に見極めさせることになろう ローレンス・H・トライブ、『サイバースペースにおける憲法』(1)

序論

 ブラック法律辞典は、禁制品(Contraband)を次のように定義する。「製造又は所持することが非合法である物」(2)。本稿は、新たに出現した環境「サイバースペース」における新種の禁制品、デジタル禁制品に焦点をあてる。そのようなデジタル禁制品の所有を発見し訴追する政府の能力に対して、修正第4条の理論のもといかなる抑制力が存在すると考えられるか、その答えを求めたい。本稿において特に注目したのは、自動化され広範囲にわたって行なわれる捜索であり、それは、あくまで理論上では何百万ものファイルの走査(scan)が可能であり、当局に対しては、単に禁制品を含んでいるファイルの存在のみを報告するにすぎないという捜索である。
 サイバースペース内において法を執行する権限を、明らかにするということ以上に、そのような捜索に対する抑制の本質、または不足は、修正第4条(3)の本旨を明らかにすると考えられる。政府は、本稿において述べているような捜索を実際に行わないかもしれないが、インターネット上の捜索は、「完全な捜索(perfect search)」の事例を、具体的に、そして容易に思い浮かべることができるようにするのである。このことはまた、「完全な捜索」を行なう権限が、政府の手中に収まることは容認できないのではないかという疑問を、我々に投げかけることともなる。ポッター・ステュワート(Potter Stewart)判事はかつて、修正第4条が保護するのは「人であり、場所ではない」(4)と述べた。サイバースペース内にある禁制品に対して行なわれると予想される正規の捜索は、「何から」その問題を処理するのかという問題を突き付けると考えられる。
 修正第4条は、純粋に私的な情報を明かすために用いられる政府の能力を、制限することを要求しているにすぎない規定なのか、また、同条項は犯罪行為に関連のある証拠へ政府がアクセスすることを制限するために役立たせるべきなのか。現在に至るまで、この二つの制限は不可分のものであった。恣意的な捜索からの保護は、政府の要求に対して、個人が抵抗する自由を有するプライバシーの保護された領域を与えており、それは、認められた領域ではないが、潜在的に非常に重要な領域である。連邦最高裁は、修正第4条が警察活動を束縛していることを認めてきた。しかし、その束縛は、警察にとっては望ましくないものではあるが、恣意的な捜索や不当なプライバシー侵害(5)から罪のない一般市民を保護するために、なくてはならない代償として概ねとらえられてきた。裁判所が、嫌疑なき捜索を許容する、最近の傾向を批判してきた人々でさえ、警察の裁量を制限する必要性や、政府が知る権利のない(6)私的な情報を保護する必要性などに関して議論を交えているのである。しかし、新時代の到来により、当局が誰にも知られることなしに違法行為の証拠をおおまかに走査(scan)することが可能となり、そのような監視から自由であることは、「不合理な捜索及び逮捕押収に対し、その身体、住居、書類及び所有物の安全を保障される国民の権利」(7)の一部ではないのかどうかということを、問題にしていかなくてはならない。
 本稿では始めに、インターネット上において行なわれる理論上の捜索(hypothetical Net-wide search)に関して述べ、特に修正第4条の法理を考察するうえで役立つと考えられる本捜索の特色を描く。次に、1880年代から1960年代後半まで(8)、修正第4条の法理を支配してきた財産権に基礎づけられた「明確な境界」基準(bright -line rule)のもとにおける、本捜索の合憲性を分析する。そして、その基準のもとにおいて、個人に与えられていた比較的高い水準の保護と、現在の利益衡量基準(balancing test)のもとで用いられることが予想される、個人に対する低い水準の保護とを比較する。最後に、財産権に基礎づけられた基準に内在し、「完全な捜索(perfect search)」へ取り組もうとする政府のいかなる行為に対しても、影響を及ぼすと考えられる重要な価値基準について、その中のいくつかの概要を示すことによって本稿の結びとする。


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©1996 by Yale Law Journal.(Reprinted by permission of The Yale Law Journal Company and Fred B. Rothman Company from The Yale Law Journal, Vol. 105, pages 1093-1120.)Translated by Shimpo,Fumio.