(4)第三類型 −誤認を生ずる表現(FALSE LIGHT IN THE PUBLIC EYE)−(26)

 第三類型におけるプライバシ−の侵害態様は、ウォ−レン・ブランダイスの論文では触れられていないものである。
 この類型に属する侵害として、その最初の事例とされているのは1816年に詩人バイロンが、偽の劣悪な詞が、彼の作品であるとされて頒布された作品に対する差止請求が認められたという事件であり、この原則はやや漠然とした形ではあるが、後の判決傾向の中に現われているものである。(27)
 第3類型の侵害行為の態様は、一般の人に誤った印象を与えるような事実を公表することであり、それには虚偽の公表、写真の使用に際し合理的関連性が欠如している場合、過誤に基づく公表、の3種類の侵害行為の態様が挙げられている。
 第1のプライバシ−の侵害態様である虚偽の公表は、バイロンの訴訟にみられるように、時折現われてくるものであり、それは意見や発言のある部分を、その人物のものであるとし、虚偽の公表をするという侵害行為である。
 この事案に関する例として挙げられているのは、広告に偽の証明書を使用することや、知事に対して作為を請求する電報に、無断で氏名を使用したオレゴン州における事件などが挙げられている。より典型的な例としては、その人物が出したものではない本や記事、そして意見などを、その人が出したものであると偽って称する、プライバシ−の侵害行為である。
 第2のプライバシ−の侵害行為の態様は、合理的な関連性がないのにも関わらず、ある人物の写真を、本や記事の説明のために使用するという侵害行為として、しばしば見受けられるものである。
 たとえ、合理的関連性のない写真使用であっても、本人の同意を得られるであろうと思われる範囲内で、例えば、公の利益の範囲内で使用される場合においては、その使用はプライバシ−の侵害にはならないと考えられる。しかし、次のような例が挙げられているが、このような事例においては、はたして本人の同意が得られるであろうか。「タクシ−運転手の詐欺傾向」、「麻薬の密売」などといった記事に、まったく無関係の市民の顔写真が使用されるといった場合である。このような使用は、その写真の人物と、なんら合理的関連性がないのは明らかであり、さらに、公の利益という観点からも、当然逸脱した使用であるといえよう。
 このように、記事に光彩を添える目的で用いられた場合、その記事が、その人物へ当てはめる風刺的言説が存在することは明らかであり、それは公衆にその人物に対して誤った印象を与えることとなり、プライバシ−の権利侵害が成立するのである。
 第3のプライバシ−の侵害行為の態様は、有罪を宣告された犯罪者が敬されている、犯罪者写真台帳(rogues gallery)に、実際は何ら犯罪を犯していないのにもかかわらず、氏名、写真、指紋が、誤ってその台帳に記録されていることにより生じるプライバシ−の侵害である。警察が、捜査の初期の段階においてそのような記録を作成し、それを係争中の公判又は有罪確定後に、正当な目的において使用する特権を与えられているのは明白であるが、有罪確定者の中に、誤って何ら関連性のない人物が含まれ、それが公表されるといった事実は、それらの特権を越えたものであることが指摘されている。
 第2類型において、公的記録が公表されてもプライバシ−侵害とはならないことについて触れたが、前記の台帳も公の記録ではあるが、誤った記録により、一般の人に誤った印象を与えるという第3類型のプライバシ−の侵害行為の態様から、正確性の欠如した事実の公開にもプライバシ−の権利侵害が成立すると考えられよう。
 次に、プライバシ−の権利侵害が成立するための要件であるが、第1、第2類型の要件と同様に、通常人の感受性を基準にして、受忍限度を越えた侵害行為が存在することである。公開という事実に関して、極度に敏感な人は保護されないであろうことは、前に述べたとおりである。また、誤認を生ずる表現には、抽象的な表現は必ずしも必要とはされていない。
 私事の公開と誤認を生ずる表現において、プライバシ−の権利侵害が成立するためには、公表が必要要件であることから、両者に類似する点はある。しかし、私事の公開は真実を含んでいる事実の公表であるが、後者においては非公知性の要件は必要とされておらず、公表されるのは、捏造された事実であるといった点で、両者は異なるのである。
 最後に、誤認を生ずる表現は、明らかに第一類型や第二類型とプライバシ−の侵害行為の態様は異なるが、保護利益の性質は、第2類型と同様の名誉である。


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