(5)第四類型 −私事の営利的使用(APPROPRIATION)−(28)

 第四類型のプライバシ−の侵害行為の態様は、営利目的での氏名や肖像の使用である。
 ウォ−レン・ブランダイスの論文において、第四類型の不法行為へ向けられている指摘は、ほとんどない。しかし、ロバ−ソン事件に見られるように、プライバシ−訴訟においては、初期の段階からこの類型の侵害の態様が現われていたといえる。
 この類型における、最初の判例として挙げられているのは、売買目的で、無断で写真を撮影した写真家が、黙示契約違反に問われた事件(29)である。前に述べたように、ロバ−ソン事件の後、ニュ−ヨ−ク州においては制定法により、プライバシ−の権利が承認されたが、第四類型のプライバシ−の侵害態様は、プライバシ−の法体系の中でもかなり重要なものと考えられてきたのである。
 ニュ−ヨ−ク州では、この法律を適用した多くの判決が出ているが、例として、氏名、肖像、写真などが、無断で製品の宣伝や宣伝文に添えられる、又は法人名として、自分の名前が使用された事例などが挙げられている。
 ニュ−ヨ−ク州や、その後それにならって制定された法律は、宣伝や営利目的での使用というように、その規定を限定しており、そのため、その範囲は他州における慣習法と比較すると、幾分制限されたものにならざるを得ないのである。
 次に、プライバシ−の権利侵害が成立するための要件である。成立要件として挙げられているのは、次の2点である。

@同一性の要件
A営利性の要件

 @の要件は、氏名や肖像などが、まさに当人のものであるという同一性が証明されることが、必要であるということである。その氏名とは、本人であることを識別する象徴としての氏名であり、単なる名称としての氏名ではない。つまり、大統領や俳優などと同じ名前でも、その人物であうと偽ったり成り済ましたりして、信用情報や機密事項を手に入れるといったような不法行為が、その使用に際して存在しない限り、誰もが自らの名前として好きな名前を名乗ることができるということなのである。
 この基準から、自分と同じ名前が、小説、漫画、法人名などと同じであるだけでは同一性の証明にはならず、自分の名前であることを示す脈絡や状況、それを示す要素がないかぎり、プライバシ−侵害は成立しないが、演劇や小説の中で、同じ名前がまさに当人であるとして使用された場合には、その使用の差止を請求できるのは明らかである。
 一方その人物の手足の写真、所有している車、犬など、それらが誰の所有物であるかを示す要素が欠けているものを公表することに関しては、判例において免責事由とされている。
 また、その人の人生における多くの真の出来事と共に、原告の性格、職業、経歴の概要などが、明らかにフィクションであると認識されうる小説において、その登場人物の基礎として使用された事件(30)があるが、判例においては、同一性が証明できないことを理由に、プライバシ−の侵害ではされた。この種の事件はわが国の『宴のあと』事件などにも見られる事例であるが、同一性のみならず、芸術性など、この種のプライバシ−訴訟においては様々な要素が絡み合い、どのような事例がプライバシ−の侵害となるのか、まったくはっきりしない。
 原告との同一性が確認されると、プライバシ−の権利侵害が成立するための要件として、次の要件が必要になる。
 Aの要件は、氏名や肖像が、営利目的で使用されることである。制定法のもとにおいて、ここにおける利益とは、金銭的利益に違いないが、コモン・ロ−においては、この利益については、ほとんど限定されていない。しかし、ニュ−ヨ−クの裁判所はこの件に関して、困難な問題に直面することを余儀なくされたのである。
 それは、ラジオ、テレビ、映画、そして新聞や雑誌などは、決して慈善目的のために存在しているわけではなく、放送、出版、販売などにより、利益をあげることによって成り立っているという問題である。つまり、これらの媒体によって写真などが利用された場合、それらはすべて営利目的での使用ということになるはずである。そのため、裁判所は、本、映画、さらには宣伝の一部などに、たまたま、その人物の氏名が載ってしまったという場合にはプライバシ−載侵害は成立しないとし、また、偶然その人物が写り込んでしまった写真やニュ−スなどを公表することに関しても、判例から、それらは附随的使用により免責となるとされているのである。さらに、報道の自由においても、この原則は適用されるとしたのである。
 しかし、報道の自由に関しては、氏名や肖像の使用に際して、虚偽や誤解を与えるような事実が存在する場合には、単にその出版物を販売するということそれ自体で、営利的要素を満たすとされており、これはニュ−ヨ−ク州法のもと、裁判所が事実上第三類型のプライバシ−の侵害行為の態様の要件を、適用してきたといえる。
 最後に、保護利益の性質についてであるが、第四類型のプライバシ−の侵害態様は、他の類型の侵害態様とはまったく異なるものであることは明白であり、この類型における保護利益の性質は、精神
的なものというよりも、むしろ財産的利益である。プロッサ−教授は、そのような権利が、財産権として分類されることになるかどうかといった議論は、まったく無意味なことであるとの指摘をしている。


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