W おわりに

 憲法上の権利としての、プライバシーの権利の保障に関する研究が、私の研究テーマであるが、本稿では私法的側面におけるプライバシーの権利について考察を行った。私法的側面に焦点をあてた理由は、プライバシーの権利が、不法行為法上において一つの法的権利として認識されたということ、そして、今後憲法上の権利としてプライバシーの権利を論じていくにあたって、プライバシーの権利の権利侵害の成立要件は、憲法上のプライバシーの権利の侵害事例について考えていく上で、その基礎をなすと考えたからである。
 本稿で触れたウォーレン・ブランダイスの定義から、プロッサーの四類型に至るまでの段階は、クーリー判事が始めて用いた「ひとりで居させてもらう権利」という消極的権利としてのプライバシーの権利である。これは、現在では古典的なプライバシーの権利の定義と呼ばれている定義であるが、プライバシーの権利は、時代や社会の変化と共に変化し続けている権利であると考えられることは、既に述べたとおりである。
 しかし、該権利の基本的要素は変わらないはずであり、「自己情報コントロール権」などの定義付けに見られるプライバシーの権利概念は、旧来のプライバシーの権利概念から引き出すことができるであろうか。また、プロッサーの四類型の第二類型の指導的判例として触れたメルヴィン事件や、ジョージア州のペイブジック事件などは、州憲法上の幸福追求権を根拠としてプライバシーの権利を承認したが、幸福追求権を根拠としてプライバシーの権利を保障し、権利保障のための明確な定義付けを避けたことは、プライバシーの権利概念を一層不明瞭なものとする結果となっている。
 さらに、プロッサーの四類型は、不法行為法上のプライバシーの権利の侵害を体系的に解明した理論ではあるが、プロッサー教授は、プライバシー侵害は四つの異なった原告の利益への、四種類の別個の侵害から構成されると述べながらも、実際には、「精神的利益」、「名誉」、「財産的利益」の三種類の利益にしか触れていないのである。(31)
 以上のように、プライバシーの権利は未だ曖昧で未確定な要素が数多く存在している。はたして、プライバシーの権利の統一的原理を見いだすことは可能なのであろうか。今後さらに研究を深めたい。

駒澤大学大学院「公法学研究」第21号 1995年。


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